テナントの立ち退き|立退料の増額交渉

監修:弁護士 齊藤 翔平(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)

ビルのオーナーから、「建物が古くなったので建て替える。半年後までに退去してほしい」と言われた。長年この場所で店を続けてきて、常連のお客さんもいるのに、急に出ていけと言われても困る。提示された立退料も、移転の費用にすら足りそうにない。店舗や事務所のテナントが立ち退きを求められると、営業への影響が大きく、不安も大きいと思います。けれど、オーナーの都合だけで、すぐに出ていかなければならないわけではありません。この記事では、立ち退きを求められたテナントの方が知っておきたいルールと、立退料の増額交渉の進め方を解説します。

こんな疑問はありませんか?

  • オーナーに「出ていってほしい」と言われたら、従わないといけない?
  • 立退料は、どのくらいもらえる?
  • 提示された金額に納得できないときは、どうすればいい?
  • 営業できなくなる間の損失も、補償してもらえる?

この記事でわかること

  • 立ち退きを求めるには「正当事由」が必要なこと
  • 立退料に含まれるもの
  • 立退料の増額交渉の進め方
  • 立ち退きを求められたときにやってはいけないこと

立ち退きには正当事由が必要

店舗や事務所の賃貸借には、借地借家法という法律が適用されます。この法律では、オーナーが契約の更新を断ったり、解約を申し入れたりして立ち退きを求めるには、「正当事由」が必要とされています。

正当事由があるかどうかは、次のような事情を総合的に考えて判断されます。

  • オーナーがその建物を使う必要性と、テナントがその建物を使う必要性
  • これまでの契約の経過
  • 建物の利用の状況や、建物の老朽化の程度
  • オーナーが申し出た立退料の金額

裁判では、オーナー側の必要性は厳しく判断される傾向があり、「建物が古い」「建て替えたい」という理由だけでは、正当事由が認められないことも多くあります。足りない正当事由を補うものとして、立退料の支払いが考えられています。

POINT 正当事由が弱いほど、テナント側の交渉力は強くなります。オーナーの言い分をそのまま受け入れる前に、まずは正当事由があるかどうかを確認しましょう。

立退料に含まれるもの

立退料に、法律で決まった金額や計算式はありません。店舗や事務所の場合、主に次のような項目を積み上げて、金額が決まります。

移転にかかる費用引越し費用、新しい物件の敷金・礼金・仲介手数料、内装や設備の工事費用など
営業の補償移転の間に営業できないことによる損失、移転後にお客さんが減ることによる売上の減少など
借家権の価値長く借りてきたことで生まれる、借りる権利そのものの経済的な価値
その他賃料の差額(移転先の賃料が高くなる分)、常連客への案内などの費用

店舗の場合、営業の補償が大きくなるため、住宅よりも立退料が高くなる傾向があります。賃料の数か月分では足りず、数年分に相当する金額になることもあります。実際の金額は、営業の規模や移転の難しさによって大きく変わります。

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立ち退きに応じる必要があるのか、立退料はいくらが妥当かの見通しから、オーナーとの交渉まで、弁護士がサポートします。

立退料の増額交渉の進め方

1. オーナーの正当事由を確認する

建て替えの計画は具体的なのか、建物の老朽化は本当に使えないほどなのか、オーナーが自分で使うというのは本当に必要なのかなど、オーナー側の事情を確認します。正当事由が弱ければ、そのことを指摘したうえで、立ち退きに応じる条件として、十分な立退料を求めることができます。

2. 移転の費用と損失を具体的に計算する

移転先の候補を調べ、引越し費用や内装工事の見積り、売上の資料などをそろえて、立ち退きによる損失を具体的な金額で示します。根拠のある数字を示すことが、増額につながります。

3. 書面で交渉する

口頭でのやりとりは、後で「言った」「言わない」の争いになりがちです。オーナーからの申し入れも、こちらからの回答も、書面で残しながら進めます。弁護士に依頼すれば、オーナーとのやりとりを弁護士が窓口になって進めます。

4. 合意したら合意書を作る

立退料の金額や支払いの時期、退去の時期、原状回復の扱いなどを、合意書にまとめます。退去の時期は、移転先の準備や工事の期間を考えて、余裕をもって決めることが大切です。

立ち退きを求められたときにやってはいけないこと

  • 内容をよく確認せずに、解約の合意書や退去の約束にサインする
  • 提示された金額に納得していないのに、口頭で「わかりました」と答える
  • 賃料の支払いを止める(賃料の不払いは、契約を解除される理由になる)
  • 感情的になって、オーナーとの関係を必要以上にこじらせる

一度、立ち退きに合意してしまうと、後から立退料の増額を求めるのは難しくなります。返事をする前に、ご相談ください。

話し合いでまとまらない場合

話し合いでまとまらない場合、オーナーが建物の明渡しを求める裁判を起こすことがあります。裁判では、正当事由があるかどうかが判断され、立退料の支払いと引き換えに明渡しを認める判決が出ることもあります。

裁判になっても、判決が出るまでは営業を続けることができます。裁判の途中で、立退料の金額について和解することも多くあります。

定期借家契約の場合

契約が定期借家契約の場合は、期間が満了すれば契約は終了し、正当事由や立退料は原則として必要ありません。契約書で、定期借家契約かどうかを確認しましょう。

弁護士に依頼するメリット

  • 正当事由の有無や、妥当な立退料の見通しを、事前に確認できる
  • 移転の費用や営業の損失を整理し、根拠のある金額で交渉を進められる
  • オーナーとの交渉を弁護士が窓口になって進め、営業に集中できる
  • 裁判になった場合も、そのまま対応を任せられる

弁護士費用

立ち退きの問題は、店舗の規模や求める立退料の金額、話し合いで解決できるか裁判になるかによって、必要な作業が大きく変わります。そのため、弁護士費用は、ご事情を伺ったうえで、別途お見積りをお出しします。ご依頼の前に、費用の見通しを必ずご説明します。

よくある質問

Q. 契約の期間が終わるから出ていけと言われた

普通の賃貸借契約では、期間が終わっても、正当事由がなければオーナーは更新を断ることができません。期間が終わることだけを理由に、出ていく必要はありません。

Q. 立退料はいつもらえる?

合意書で決めた時期に受け取ります。退去と引き換えに支払うことが多いですが、移転の準備のために、一部を先に受け取る形で合意することもあります。

Q. 退去するなら、内装は元に戻さないといけない?

契約では原状回復が決められていることが多いですが、オーナーの都合による立ち退きでは、原状回復を免除する形で合意することもよくあります。交渉の条件の1つとして、あわせて話し合いましょう。

まとめ

店舗や事務所のテナントは、オーナーから立ち退きを求められても、正当事由がなければ応じる義務はありません。立退料は、移転の費用や営業の補償などを積み上げて決まるもので、オーナーが最初に提示した金額が妥当とは限りません。合意する前に、正当事由の有無と立退料の内訳を確認し、根拠のある金額で交渉することが大切です。

立ち退きを求められたら、返事をする前に、弁護士にご相談ください。

この記事の監修

弁護士 齊藤 翔平(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)

青山学院大学法学部卒業。
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