懲戒解雇でも退職金は支払われる?|不支給・減額が許されるのは「勤続の功を打ち消すほどの背信行為」がある場合だけ(小田急電鉄事件)

監修:弁護士 和田 慈朗(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)

「懲戒解雇だから退職金は支給しない」。
多くの会社の退職金規程には、このような定めがあります。
しかし、懲戒解雇されたからといって、長年働いて積み上げてきた退職金が当然にゼロになるわけではありません。
裁判所は、退職金の不支給や減額が許されるのは、それまでの勤続の功労を打ち消してしまうほどの重大な背信行為があった場合に限られる、という考え方をとっています。

この記事では、退職金の法律上の性格、懲戒解雇と退職金不支給の関係についての裁判所の判断枠組み、代表的な裁判例、そして実際に請求を進める際のポイントをご説明します。

こんな疑問はありませんか?

  • 懲戒解雇されたら、退職金はもうもらえないの?
  • 退職金規程に「懲戒解雇の場合は不支給」と書いてあっても争える?
  • 一部でも支払ってもらえる可能性はある?

この記事でわかること

  • 退職金の「賃金の後払い」と「功労報償」という2つの性格
  • 不支給・減額が許されるかどうかの判断枠組み
  • 小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日判決)の内容
  • 懲戒解雇そのものが無効な場合との関係と、請求の進め方

退職金の2つの性格:賃金の後払いと功労報償

退職金は、就業規則や退職金規程に支給条件が定められていれば、労働の対償である「賃金」にあたります(労働基準法11条)。
退職金には、一般に、在職中の労働に対する賃金を後払いする性格と、長年の勤続の功労に報いる性格の両方があると考えられています。

会社が「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」という定めを置くことは、功労報償という性格からすれば、功労を打ち消すような行為があった場合に支給しないという趣旨として、それ自体が無効とされるわけではありません。
しかし、賃金の後払いという性格を考えれば、どのような懲戒解雇であっても一律に全額を奪ってよいことにはなりません。
ここに、裁判所が不支給の範囲を限定する理由があります。

不支給が許されるのは、勤続の功を打ち消すほどの背信行為がある場合

裁判例では、退職金規程に不支給条項があっても、実際に不支給とすることが許されるのは、労働者のそれまでの勤続の功を抹消(または減殺)してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られる、という考え方が定着しています。
そして、その程度に至らない場合には、不支給条項があっても全額の不支給は認められず、行為の内容や勤続の状況に応じて、退職金の一部の支払いが命じられることがあります。

具体的には、次のような事情が考慮されます。

  • 非違行為の内容と重大性。
     横領や背任など会社の財産を直接侵害する行為か、職務と関係のない私生活上の行為か。
  • 会社の業務や信用への影響。
     会社の事業の信頼を大きく損なう行為であったか。
  • これまでの勤続年数と勤務成績。
     長年にわたり真面目に勤務してきた実績があるか。
  • 退職金の性格。
     その会社の退職金が、賃金の後払いとしての性格が強いか、功労報償の性格が強いか。

代表的な裁判例:小田急電鉄事件

鉄道会社の社員が、他社の電車内で痴漢行為を繰り返して逮捕され、懲戒解雇されるとともに、退職金規程の不支給条項により退職金を全額不支給とされた事案です。
東京高等裁判所は、懲戒解雇自体は有効としながらも、退職金の不支給については、本人の行為が職務と直接関係のない私生活上の非行であることなどから、勤続の功を完全に抹消するほどの強度な背信性があるとまではいえないとして、全額不支給は許されず、本来の退職金額の3割を支払うべきであると判断しました(東京高裁平成15年12月11日判決)。

この判決は、懲戒解雇の有効性と退職金不支給の可否は別の問題であること、不支給条項があっても背信性の程度に応じて一部の支払いが認められ得ることを示したものとして、その後の裁判例や実務に大きな影響を与えています。

懲戒解雇そのものが無効な場合

懲戒解雇が有効であることを前提に退職金の不支給が争われるケースのほか、そもそも懲戒解雇自体が無効であるケースも多くあります。
懲戒解雇は、就業規則に懲戒の理由と種類が定められていることに加え、行為の性質や事情に照らして懲戒解雇という最も重い処分が相当であることが必要です(労働契約法15条)。
懲戒解雇が無効であれば、不支給条項の前提そのものが崩れ、退職金は原則どおり全額を請求できます。
懲戒解雇の有効性については、不当解雇・退職勧奨のページをご覧ください。

請求の進め方

  • 退職金規程を確認する。
     不支給・減額条項の文言(「支給しない」「支給しないことがある」「減額することができる」など)によって、会社の裁量の範囲が異なります。
  • 懲戒解雇の理由と手続きを確認する。
     懲戒解雇通知書や解雇理由証明書を取り寄せ、理由とされた事実が正確か、就業規則の懲戒事由にあたるか、手続きが適正かを検討します。
  • 勤続の実績を整理する。
     勤続年数、過去の人事評価、表彰歴など、功労を示す資料を集めます。
  • 時効に注意する。
     退職金の請求権は支払時期から5年で時効にかかります(労働基準法115条、附則143条3項)。
  • 弁護士に相談する。
     懲戒解雇の有効性と退職金不支給の可否は、いずれも法的な評価が分かれる論点です。
    弁護士が代理人として会社に請求し、必要に応じて労働審判・訴訟で争います。

まとめ

  • 退職金には賃金の後払いと功労報償の2つの性格があり、懲戒解雇されても当然にゼロになるわけではありません。
  • 不支給が許されるのは、勤続の功を打ち消すほどの重大な背信行為があった場合に限られ、それに至らなければ一部の支払いが認められることがあります(小田急電鉄事件・東京高裁平成15年12月11日判決では3割の支払いを命令)。
  • 懲戒解雇そのものが無効であれば、退職金は原則どおり全額を請求できます。

「懲戒解雇だから退職金はない」という会社の説明を、そのまま受け入れる必要はありません。
退職金規程と懲戒解雇の通知書をお持ちのうえ、一度ご相談ください。

POINT 大宮ありあけ法律事務所では、退職金請求のご相談を初回30分無料でお受けしています。
懲戒解雇の有効性とあわせて、見通しをご説明します。

この記事の監修

弁護士 和田 慈朗(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)

社会保険労務士試験合格。官公庁での勤務を経て弁護士に。
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