監修:弁護士 齊藤 翔平(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)
ビルのオーナーから突然、「来月から賃料を3割上げます」という通知が届いた。長年この場所で店を続けてきたのに、払えなければ出ていってほしいとまで言われている。賃料が上がれば、売上が変わらなくても利益は大きく減ってしまう。店舗や事務所の賃料の値上げを求められると、応じなければ営業を続けられなくなるのではと不安になる方も多いと思います。けれど、オーナーが一方的に決めた金額に、必ず従わなければならないわけではありません。この記事では、ビルの賃料の値上げを求められたテナントの方ができる対応と、知っておきたいルールを解説します。
こんな疑問はありませんか?
- オーナーから値上げの通知が来たら、応じないといけない?
- 値上げに納得できないとき、今までの家賃を払い続けていい?
- 値上げを拒んだら、追い出される?
- 値上げが妥当かどうかは、どうやって判断する?
この記事でわかること
- 値上げに応じる義務があるかどうかの考え方
- 値上げを求められたときの家賃の支払い方
- 話し合いでまとまらないときの流れ
- 値上げの幅を抑えるためのポイント
値上げに応じる義務はあるのか
家賃は、契約で決めた金額が基本です。オーナーが値上げを求められるのは、借地借家法が定める次のような事情で、今の家賃が「不相当」になっている場合に限られます。
- 土地や建物の固定資産税などの負担が増えた
- 土地や建物の価格が上がったなど、経済の事情が変わった
- 近くの同じような建物の家賃と比べて、安くなっている
そのため、こうした事情がなければ、値上げを求められても応じる義務はありません。事情があったとしても、適正な家賃がいくらかは話し合いや裁判で決まるもので、オーナーが通知した金額がそのまま決まるわけではありません。
相場の賃料まで上がるとは限らない
オーナーから「近くのビルの賃料はもっと高い」と言われることがあります。ただ、裁判では、新しく貸す場合の賃料(新規賃料)ではなく、今の契約を続けることを前提にした賃料(継続賃料)として判断されるため、周りの募集賃料と同じ金額まで上がるとは限りません。
契約書の確認
契約書に「一定の期間は家賃を増額しない」という約束があれば、その期間中は値上げを求められません。一方、定期借家契約で家賃の改定についての特約がある場合は、その特約に従うことになるため、まずは契約書を確認しましょう。
値上げを求められた後の家賃の支払い方
値上げに納得できない場合でも、家賃の支払いを止めてはいけません。借地借家法では、話し合いがまとまるまでの間、借主は、自分が相当だと考える金額を支払えばよいとされています。多くの場合は、今までの家賃を払い続けることになります。
今までの家賃を払い続けていれば、家賃の不払いとして契約を解除されることはありません。オーナーが受け取りを拒んだ場合は、法務局に供託する方法があります。
POINT 「値上げに納得できないから」と支払いを止めてしまうと、不払いを理由に契約を解除されるおそれがあります。今までの家賃は、必ず払い続けてください。
増額が認められた場合の注意
ただし、最終的に裁判などで増額が認められた場合は、値上げを求められた時までさかのぼって、不足していた分に年1割の利息をつけて支払う必要があります。値上げに一定の根拠がありそうな場合は、早めに話し合いで解決したほうが、負担を抑えられることもあります。
家賃の値上げを求められた方のご相談をお受けしています
値上げが妥当かどうかの見通しや、オーナーとの交渉を、弁護士がサポートします。店舗・事務所のテナントの方もご相談ください。
話し合いでまとまらないとき
オーナーと話し合ってもまとまらない場合、オーナーは、簡易裁判所の調停を申し立て、それでもまとまらなければ裁判を起こすことになります。調停や裁判では、固定資産税の変化や周辺の相場などの資料をもとに、適正な家賃が決められます。裁判では、不動産鑑定士の鑑定が行われることが多くあります。
借主の側からも、周辺の相場や建物の古さ、設備の状況など、値上げが妥当でないことを示す資料を出して、主張することができます。
値上げの幅を抑えるためのポイント
- 周辺の同じような店舗・事務所の賃料を調べ、相場と比べて今の賃料が安くないことを示す
- 建物の古さや設備の状況、不便な点など、家賃が低くてもおかしくない事情を整理する
- 契約したときの経緯(安くする代わりに内装工事を自分で負担した、など)を確認する
- オーナーが示した根拠(固定資産税の増加など)が、求められた値上げの幅に見合っているかを確認する
- 値上げに応じる場合も、段階的に上げる、時期を遅らせるなど、現実的な条件を提案する
営業への影響も踏まえて交渉する
賃料の値上げは、経営に直接影響します。売上の状況や、移転にかかる費用の大きさなども踏まえて、交渉を進めることが大切です。大幅な値上げを求められた場合は、交渉を弁護士に任せることで、相手の根拠を冷静に検討しながら進めることができます。
弁護士に依頼するメリット
- 値上げが妥当かどうか、どのくらいの金額が適正かの見通しを確認できる
- オーナーや管理会社との交渉を任せられる
- 調停や裁判になった場合の資料の準備や、鑑定への対応を任せられる
- 家賃の支払い方など、不利にならない対応を確認しながら進められる
弁護士費用
家賃の値上げの問題は、物件の種類や求められている金額、話し合いで解決できるか調停・裁判になるかによって、必要な作業が大きく変わります。そのため、弁護士費用は、ご事情を伺ったうえで、別途お見積りをお出しします。ご依頼の前に、費用の見通しを必ずご説明します。
よくある質問
Q. 値上げを断ったら、出ていけと言われた
値上げを断ったことだけを理由に、契約を終了させることはできません。立ち退きを求めるには、正当事由という別の条件が必要です。
Q. 更新のときに値上げを条件にされた
更新のときも、合意がなければオーナーが一方的に家賃を決めることはできません。合意できなくても、契約は法定更新され、家賃は従来の金額のままで続きます。
Q. 逆に家賃を下げてもらうことはできる?
できます。周辺の相場と比べて今の家賃が高くなっている場合などは、借主の側から減額を求めることができます。
まとめ
家賃の値上げは、固定資産税の増加や周辺の相場との差などで今の家賃が不相当になっている場合にだけ認められ、オーナーが通知した金額がそのまま決まるわけではありません。納得できないときは、今までの家賃を払い続けながら、資料をもとに話し合い、まとまらなければ調停・裁判で適正な家賃が決められます。
値上げの通知が届いたら、支払いを止めずに、早めに弁護士にご相談ください。