監修:弁護士 佐藤 都(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)
事故から2〜3か月ほどたったころ、保険会社の担当者から「そろそろ治療を終えていただけませんか」「来月で治療費のお支払いを終了します」と連絡がくることがあります。まだ首や腰が痛むのに、このまま通院をやめなければならないのかと、不安になる方は少なくありません。
結論からお伝えすると、治療費の打ち切りは、保険会社が「治療費の支払いを終える」という連絡であって、あなたが治療をやめなければならないという意味ではありません。治療を続ける必要があるかどうかを判断するのは、保険会社ではなく、治療をしている医師です。
この記事では、打ち切りを言われたときにまずやること、打ち切られた後も通院を続ける方法、通院をやめてしまった場合の影響などを、順を追って解説します。
こんな疑問はありませんか?
- まだ痛いのに、通院をやめないといけないの?
- 打ち切りを断ることはできる?
- 打ち切りの後に病院に行ったら、治療費は自己負担になる?
- 通院をやめると、慰謝料や後遺障害に影響する?
この記事でわかること
- 治療費の打ち切りとは何か、なぜ言われるのか
- 打ち切りを言われたときに、まずやること
- 健康保険を使って通院を続ける方法と、立て替えた治療費の扱い
- 通院をやめた場合の、慰謝料や後遺障害への影響
治療費の打ち切りとは
交通事故のけがの治療費は、多くの場合、相手方の保険会社が病院に直接支払っています。これを「一括対応」といいます。治療費の打ち切りとは、保険会社がこの一括対応をやめて、病院への支払いを終えることです。
保険会社は、次のような理由で打ち切りを打診してきます。
- 治療を続けても、これ以上よくならない状態(症状固定)になったと考えている
- けがの種類ごとに、保険会社が目安としている治療期間が過ぎた
- 通院の回数が少なく、症状が軽くなったと考えている
- 整骨院への通院が中心で、医師の治療の必要性が見えにくい
たとえば、むちうち(頚椎捻挫)では、事故から3か月ほどで打ち切りを打診されることが多いといわれています。ただ、これはあくまで保険会社の目安であり、症状の重さや回復のしかたは人それぞれです。
POINT 打ち切りの連絡は、保険会社が支払いをやめたいという意思表示にすぎません。治療を続けるかどうかは、医師と相談して決めましょう。
打ち切りを言われたら、まずやること
その場で同意しない
電話で「来月末で終了でよろしいですね」と言われても、その場で「わかりました」と答える必要はありません。「主治医に相談してから回答します」と伝えて、いったん保留にしましょう。
主治医に相談する
次の診察のときに、主治医に、保険会社から治療費の打ち切りを言われたことを伝えます。そのうえで、次のような点を確認しましょう。
- 今の症状が、治療を続けることでよくなる見込みがあるか
- あとどのくらい治療が必要と考えているか
- 症状固定の時期をどう考えているか
医師が「まだ治療が必要」と考えている場合は、その意見を保険会社に伝えることで、支払いの期間を延ばしてもらえることがあります。必要に応じて、医師に診断書や意見書を書いてもらうこともあります。
やりとりを記録しておく
いつ、誰から、どのような連絡があったかをメモしておきましょう。後で治療費を請求するときや、弁護士に相談するときに役立ちます。
治療費の打ち切りのご相談を受け付けています
保険会社への対応や、今後の通院について、状況を伺ってアドバイスします。弁護士費用特約もご利用いただけます。
打ち切られた後も、通院を続ける方法
保険会社の支払いが終わった後も、通院を続けることはできます。その場合は、いったんご自身で治療費を支払いながら通院し、後から相手方に請求することになります。
健康保険に切り替える
交通事故のけがでも、健康保険を使って通院することができます。その場合は、加入している健康保険の窓口に「第三者行為による傷病届」を提出します。健康保険を使えば、窓口で支払う金額は原則として3割で済みます。
ご自身の保険が使える場合もある
ご自身の自動車保険に「人身傷害保険」が付いている場合は、そちらから治療費が支払われることもあります。保険証券を確認してみましょう。
立て替えた治療費は後から請求できる可能性がある
打ち切りの後に立て替えた治療費も、治療の必要性が認められれば、示談交渉や裁判の中で、相手方に請求できる可能性があります。病院や薬局の領収書は、必ず保管しておきましょう。
POINT 整骨院の施術は、健康保険が使える範囲が限られています。打ち切りの後も整骨院に通いたい場合は、主治医と相談し、整形外科への通院も続けることが大切です。
通院をやめると、どんな影響があるか
保険会社に言われるまま通院をやめてしまうと、次のような不利益につながることがあります。
- 入通院慰謝料が少なくなる:入通院慰謝料は、通院した期間や日数をもとに計算されるため、早く通院をやめると金額が下がることがあります
- 後遺障害の認定が受けにくくなる:症状が残っているのに通院が途切れると、「すでに治っていた」と判断されやすくなります
- 治療が不十分なまま症状が残る:何より、ご自身の体の回復が遅れてしまうおそれがあります
一方で、医師が必要と考えていないのに通院を続けると、その分の治療費は認められにくくなります。大切なのは、医師の判断にもとづいて、必要な治療を続けることです。
症状固定と後遺障害
治療を続けても、これ以上よくならない状態を「症状固定」といいます。症状固定の時期を決めるのは、保険会社ではなく医師です。治療費の打ち切りの時期が、そのまま症状固定の時期になるわけではありません。
症状固定の後も痛みやしびれが残っている場合は、後遺障害の等級の認定を申請することを検討します。申請の流れは「後遺障害の申請の流れ」、むちうちの場合のポイントは「むちうちで後遺障害14級に認定されるには」で解説しています。
弁護士に相談すると
- 保険会社とのやりとりを、弁護士に任せられる
- 医師の意見を踏まえて、治療費の支払いの延長を交渉できる
- 健康保険への切り替えや、立て替えた治療費の請求について、具体的にアドバイスを受けられる
- 症状固定の後の後遺障害の申請や、慰謝料の交渉まで、続けて任せられる
ご自身やご家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士費用を保険会社に負担してもらえる場合があります。特約の使い方は「弁護士費用特約の使い方」をご覧ください。
よくある質問
Q. 打ち切りを断れる?
保険会社に、治療費の支払いを続けるよう強制することは難しいのが実情です。ただ、医師の意見を伝えることで、支払いの期間を延ばしてもらえることはあります。打ち切られた後も、健康保険などを使って通院を続け、後から請求する方法があります。
Q. 打ち切り後の治療費は?
治療の必要性が認められた範囲で、相手方に請求できる可能性があります。必ず全額が認められるとは限らないため、医師と相談しながら、必要な治療を続けることが大切です。
Q. 整骨院に通っていても、打ち切られることはありますか?
あります。整骨院への通院が中心の場合は、施術の必要性を争われやすく、打ち切りの理由にされることもあります。整形外科への通院も続けておきましょう。
Q. 打ち切りを言われたら、すぐに弁護士に相談したほうがよいですか?
早めにご相談いただくほど、取れる手段が多くなります。保険会社に返事をする前にご相談いただければ、どう答えればよいかも含めてアドバイスできます。
まとめ
治療費の打ち切りは、保険会社が支払いを終えたいという連絡であり、治療をやめなければならないという意味ではありません。打ち切りを言われたら、その場で同意せず、まずは主治医に相談しましょう。
打ち切られた後も、健康保険などを使って通院を続け、立て替えた治療費を後から請求できる可能性があります。対応に迷ったときは、保険会社に返事をする前に、お気軽にご相談ください。