監修:弁護士 齊藤 翔平(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)
昔、石綿を扱う工場で働いていて、石綿肺や中皮腫になった。国から賠償金が支払われると聞いたけれど、アスベストを使っていたのは工場の会社なのに、どうして国が払うのだろう。工場で働いていた方の被害については、「泉南アスベスト訴訟」で最高裁判所が国の責任を認め、それをもとに、国と和解して賠償金を受け取る仕組みができました。この記事では、なぜ国に責任があるとされたのか、どの時期に働いていた方が対象なのかを、できるだけやさしく説明します。
こんな疑問はありませんか?
- アスベストを使っていたのは会社なのに、なぜ国の責任?
- どの時期に工場で働いていた人が対象?
- 国の責任は、損害の全部?
- 賠償金は、どうやって受け取る?
この記事でわかること
- 「規制する権限を使わなかった」ことが違法とされる考え方
- 泉南アスベスト訴訟で国の責任が認められた理由
- 国の責任が認められる期間(1958年5月〜1971年4月)と割合
- 国との和解手続きで賠償金を受け取る流れ
なぜ国に責任があるのか
国は、働く人の健康を守るために、危険な物質の使い方を規制する権限を持っています。アスベストの粉じんを吸うと肺の病気になることは、医学的には早い時期から知られていました。
最高裁判所は、「国が、アスベストの危険性を知ることができたのに、働く人を守るための規制を行わなかったことは、権限の使い方として著しく合理性を欠き、違法である」と判断しました。これを「規制権限の不行使」といいます。
POINT 国が直接アスベストを使ったわけではありませんが、「止められる立場にあったのに止めなかった」ことが、国の責任の根拠です。そのため、国の責任が認められるのは、「規制すべきだったのにしなかった期間」に限られます。
泉南アスベスト訴訟(最高裁2014年10月9日)
大阪・泉南地域は、石綿を糸や布に加工する工場が多く集まっていた地域で、工場で働いていた方やその家族に、石綿肺などの被害が多く出ました。工場で働いていた方やご遺族が国を訴えた裁判が、泉南アスベスト訴訟です。
| 国が怠ったこと | 工場に「局所排気装置」(作業する場所の粉じんを吸い込んで外に出す装置)の設置を義務付ける規制を、できたはずの時期に行わなかった |
|---|---|
| 責任が認められた期間 | 1958年5月26日〜1971年4月28日(排気装置の設置を義務付ける規則ができる前日まで) |
| 国の責任の割合 | 損害の2分の1(被害を起こした主な責任は、工場を経営する会社にあるため) |
| 対象の病気 | 石綿肺(じん肺管理区分2以上)、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚 |
泉南地域の工場に限らず、全国の石綿工場(石綿製品を作る工場、石綿を加工する工場など)で、この期間に働いていた方が対象になります。
石綿工場で働いていた方・ご遺族のご相談をお受けしています
働いていた時期と作業の内容を伺い、国との和解の対象になるかをお伝えします。
国との和解手続き
最高裁判決を受けて、国は、同じ立場の被害者と裁判の中で和解して賠償金を支払う方針を決めました。そのため、工場型の被害では、裁判所に訴えを起こし、国と和解する形で賠償金を受け取ります。
| 条件 | 1958年5月26日〜1971年4月28日に、石綿工場で石綿の粉じんを吸う作業に従事し、石綿肺・中皮腫・肺がん・びまん性胸膜肥厚になった方(亡くなった場合はご遺族) |
|---|---|
| 賠償金の目安 | 病気の重さによって、550万円〜1,300万円(石綿肺の管理区分、合併症の有無、死亡の有無で決まる) |
| 期限 | 被害を知ってから5年、最も重い症状が出てから20年の制限があるため、早めの確認が必要 |
→ 制度の全体像は「アスベスト被害の補償|給付金・労災・救済制度の違い」
あわせて使える補償
- 労災:仕事が原因の病気なので、労災の療養補償・休業補償・遺族補償が受けられる(国との和解とは別)
- 勤め先の会社への損害賠償:会社が安全対策を怠っていた場合、会社に対して別に請求できることがある
- 建設現場で働いていた期間もある方:建設アスベスト給付金の対象になることがある
→ 建設現場の場合は「建設アスベストで国の責任|認められた理由と期間」
よくある質問
Q. 1971年5月以降に石綿工場で働いていた
国との和解の対象期間からは外れますが、労災の対象にはなります。会社への損害賠償も検討できます。
Q. 工場がもうなくなっている
国との和解は、国に対する請求なので、会社がなくなっていても請求できます。働いていたことは、年金の記録などで証明します。
Q. 裁判を起こさないといけない?
工場型は、建設型と違って給付金の制度がないため、裁判所に訴えを起こして和解する形になります。弁護士が代理で進めます。
まとめ
石綿工場で働いていた方の被害について、最高裁判所は、国が1958年5月〜1971年4月に排気装置の設置を義務付ける規制をしなかったこと(規制権限の不行使)を違法とし、損害の2分の1の責任を認めました。この期間に石綿工場で働いていた方やご遺族は、裁判の中で国と和解して賠償金を受け取ることができます。
働いていた時期が当てはまるかどうか、お気軽にご相談ください。