監修:弁護士 齊藤 翔平(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)
父が亡くなった後に通帳を確認したら、亡くなる前の数年間に、何千万円も引き出されていた。父と同居していた兄が、管理を任されていたはずなのに。相続では、こうした預金の使い込み(使途不明金)をめぐる争いがよく起こります。家族を疑わなければならないこと自体が、とてもつらいことです。
使い込みが疑われる場合は、まず預金の取引履歴を取り寄せて、いつ、いくら引き出されたのかを確認することから始めます。そのうえで、引き出した人に使い道の説明を求め、必要に応じて返還を求めていきます。この記事では、預金の使い込みを確認するポイントと、返還を求める方法を解説します。
こんな疑問はありませんか?
- 親の預金が、大きく減っている
- 同居していた兄弟が、勝手に引き出していたかもしれない
- 取引の記録は、どうやって取り寄せる?
- 使い込まれたお金は、取り戻せる?
- 亡くなった後に引き出された場合は?
この記事でわかること
- 預金の取引履歴の取り寄せ方
- 使い込みかどうかを確認するポイント
- 亡くなる前と後の引き出しの違い
- 使い込まれたお金の返還を求める方法
まずは預金の取引履歴を取り寄せる
使い込みが疑われる場合は、まず、亡くなった方の預金の取引履歴を、金融機関から取り寄せます。相続人であれば、ほかの相続人の同意がなくても、取引履歴の開示を求めることができます。
取引履歴を見ると、いつ、どの支店やATMで、いくら引き出されたかがわかります。どの銀行に口座があったかわからない場合は、弁護士会照会を使って調べることもできます。
使い込みかどうかを確認するポイント
使い込みが疑われるときは、次の順番で確認していきます。
1. 誰が引き出したのか
取引履歴で、引き出した日時や、ATM・窓口のどちらで引き出したかを確認します。そのうえで、当時、通帳やキャッシュカード、暗証番号を管理していたのは誰かを確かめ、誰が引き出したのかを特定します。
2. 引き出した人が認めているか
引き出した人が、自分が引き出したことを認めているかどうかも大切です。認めている場合は、何に使ったのかを説明してもらいます。認めていない場合は、ATMの場所や、払戻しの書類の筆跡などから、誰が引き出したのかを示していく必要があります。
3. 当時の生活状況から、どのような支出だったか
引き出されたお金が、亡くなった方のために使われたのかどうかを、当時の生活状況から確認します。
- 引き出された時期に、亡くなった方が自分で銀行に行ける状態だったか(入院や施設への入所、認知症の進み具合など)
- 引き出された金額が、亡くなった方の生活費や、医療費・介護費として説明できるか
- 短い期間に、まとまった金額が繰り返し引き出されていないか
4. 使い道の説明が合理的か
引き出した人が使い道を説明した場合は、その説明が合理的かどうかを確認します。
- 説明された金額が、実際にかかった医療費や介護費、生活費と合っているか
- 領収書や、介護サービスの利用記録などの裏付けがあるか
- 引き出された時期や回数と、説明の内容が食い違っていないか
説明に裏付けがない場合や、金額が大きく合わない場合は、使い込みが疑われることになります。
5. 「贈与だった」と言われた場合
引き出した人が「親からもらった(贈与を受けた)」と言う場合は、使い込みではなく、生前の贈与として扱われることがあります。この場合、その贈与が特別受益に当たれば、遺産分割の中で、その分を考慮して分け方を決めることができます。
POINT 「医療費や介護費に使った」「本人に頼まれて渡した」と説明されることも多くあります。領収書や、介護サービスの利用記録、病院の記録などとあわせて、使い道を確認していくことが大切です。説明に納得できないときは、話し合いを進める前に弁護士にご相談ください。
預金の使い込みのご相談を受け付けています
取引履歴の取り寄せから、返還の請求までお手伝いします。
亡くなる前と後の引き出しの違い
亡くなる前の引き出し
亡くなる前に引き出されたお金は、すでに遺産から出ていったものです。そのため、引き出した相続人を含めて、相続人全員が合意できれば、遺産分割の話し合いや調停の中で、使い込みの問題もあわせて解決することができます。
一方で、引き出した相続人が使い込みを認めないなど、合意ができない場合は、遺産分割の手続きでは解決できません。この場合は、遺産分割とは別に、不当利得返還請求訴訟(地方裁判所での裁判)を起こして、返還を求めることになります。
亡くなった後の引き出し
亡くなった後に、ほかの相続人に無断で引き出されたお金は、遺産分割の中で解決することができます。2019年の法律の改正で、引き出されたお金も遺産として残っているものとみなして、分け方を決められるようになりました。この場合、引き出した本人の同意は必要ありません。葬儀費用などにあてた場合は、その使い道も確認します。
使い込まれたお金の返還を求める方法
- 取引履歴をもとに、引き出しの時期と金額を整理する
- 引き出した相続人に、使い道の説明と資料の提出を求める
- 遺産分割の話し合いや調停の中で、解決を目指す
- 亡くなる前の引き出しで合意できない場合は、不当利得返還請求訴訟を起こす
どの方法で解決するのがよいかは、引き出された時期や金額、証拠の状況によって異なります。
請求できるのは、自分の相続分まで
不当利得返還請求訴訟で返還を求められるのは、使い込まれた金額のうち、自分の相続分にあたる部分に限られるのが一般的です。
例えば、亡くなった方の預金から1,000万円が使い込まれ、相続人が兄と自分の2人(相続分は2分の1ずつ)の場合、自分が兄に返還を求められるのは、500万円が目安になります。
弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼すれば、取引履歴の取り寄せや、引き出しの状況の分析、相手方との交渉、訴訟まで任せることができます。介護の記録や病院の記録など、使い道を確認するための資料集めもお手伝いします。
弁護士費用
預金の使い込みの問題は、取引履歴の調査の量や、遺産分割の中で解決できるか、不当利得返還請求訴訟が必要になるかによって、必要な作業が大きく変わります。そのため、弁護士費用は、ご事情を伺ったうえで、別途お見積りをお出しします。
ご依頼の前に、費用の見通しを必ずご説明しますので、ご安心ください。
→ 相続の費用の目安は「相続の弁護士費用」
よくある質問
Q. 何年前まで調べられる?
金融機関によって、取引履歴を取り寄せられる期間が異なります。一般に、10年程度までさかのぼれることが多いとされています。早めに請求しましょう。
Q. 「親からもらった」と言われた
生前に贈与を受けたという主張であれば、特別受益として遺産分割で考慮できる場合があります。贈与があったかどうかも含めて確認が必要です。
Q. 葬儀費用のために引き出していい?
亡くなった方の預金は、遺産分割の前でも、一定の金額までは、相続人が単独で払い戻しを受けられる制度があります(1つの金融機関につき150万円までなど、上限があります)。引き出す場合は、使い道がわかる領収書を残しておきましょう。
まとめ
預金の使い込みが疑われるときは、まず取引履歴を取り寄せて、引き出しの状況を確認しましょう。
亡くなる前か後かによって、返還を求める方法が変わります。証拠をもとに進めるため、早めに弁護士にご相談ください。