監修:弁護士 齊藤 翔平(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)
父が亡くなってから、もう9年。兄弟で話し合いがつかないまま、実家は父の名義のまま放ってある。兄が父から多額の生前贈与を受けていたこと、自分が父の介護をしてきたことは、いつか遺産分割のときに主張しようと思っている。けれど、実は、相続が始まってから10年を過ぎると、こうした主張(特別受益・寄与分)は原則としてできなくなります。2023年4月の民法改正で新しくできたルールです。この記事では、このルールの内容と、例外、そしていつまでに何をすべきかを解説します。
こんな疑問はありませんか?
- 相続から10年たつと、何が変わる?
- 生前贈与や介護のことは、もう主張できない?
- 例外はある?
- 改正前に亡くなった親の相続はどうなる?
この記事でわかること
- 2023年4月の改正でできた「10年の期限」の内容
- 10年を過ぎた後の遺産分割がどうなるか(法定相続分)
- 例外(10年前に申立てをしていた場合など)
- 改正前に始まった相続の扱い(2028年3月31日まで)
10年を過ぎると、特別受益・寄与分は主張できない
2023年4月1日に施行された改正民法で、相続が始まってから10年を過ぎた後の遺産分割では、特別受益(一部の相続人が受けた生前贈与など)と寄与分(介護や家業への貢献など)を主張することができなくなりました。
10年を過ぎると、原則として法定相続分(遺言で相続分の指定があればその割合)で遺産を分けることになります。
長い間放置された遺産分割を進めやすくし、所有者不明の土地を減らすことが、この改正の目的です。
POINT 「生前贈与を受けた兄弟がいる」「自分だけが介護をしてきた」という事情があるなら、相続開始から10年以内に、遺産分割の調停・審判を申し立てておく必要があります。
例外
| 10年前に申し立てていた | 相続開始から10年が過ぎる前に、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てていた場合は、10年を過ぎても特別受益・寄与分を主張できる |
|---|---|
| やむを得ない事由があった | 10年が過ぎる前の6か月以内に、やむを得ない事由で申立てができなかった場合、その事由がなくなってから6か月以内に申し立てれば主張できる |
| 相続人全員が合意した | 相続人全員が、特別受益や寄与分を考慮した分け方に合意する場合は、10年を過ぎていても、その内容で分けることができる |
「相手との話し合いが続いているから」というだけでは、やむを得ない事由には当たりません。話し合いが長引いているときは、期限内に調停を申し立てておくことが大切です。
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相続開始の時期を確認し、期限までに申し立てるべきかどうかを含めて、進め方をお伝えします。
改正前に始まった相続の扱い
2023年3月31日以前に始まった相続にも、このルールは適用されます。ただし、経過措置として、相続開始から10年、または2028年3月31日のいずれか遅いほうまでは、特別受益・寄与分を主張できます。
- 2015年に亡くなった → 10年は2025年に過ぎているが、2028年3月31日まで主張できる
- 2020年に亡くなった → 10年後の2030年まで主張できる
古い相続を放置している方は、2028年3月31日が一つの区切りになります。
10年を過ぎた場合の分け方
10年を過ぎると、遺産は法定相続分で分けることになります。例えば、相続人が子3人なら、生前贈与や介護の事情があっても、3分の1ずつになります。
ただし、遺産に含まれる財産そのものについての争い(遺産の範囲、評価、分割の方法)は、10年を過ぎても遺産分割の中で決めることができます。
→ 寄与分については「介護した分は相続で増える?|寄与分の請求」、特別受益については「生前贈与は相続で引かれる?|特別受益」
今すべきこと
- 亡くなった方の死亡日を確認し、10年の期限(改正前の相続は2028年3月31日との遅いほう)を計算する
- 期限まで余裕がない場合は、話し合いと並行して、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てる
- 特別受益・寄与分を主張するための資料(贈与の記録、介護の記録など)を集めておく
よくある質問
Q. 調停を申し立てれば、取り下げてもいい?
10年が過ぎる前に申し立てた調停を取り下げると、申立てがなかったことになり、特別受益・寄与分を主張できなくなるおそれがあります。取下げは慎重に判断してください。
Q. 遺産分割をしないまま10年たつと、相続そのものができなくなる?
相続する権利がなくなるわけではありません。法定相続分で分けることはできます。なお、相続登記は相続を知ってから3年以内の義務があります。
Q. 10年を過ぎた後に、相手が生前贈与のことを言い出した
相手も特別受益を主張できないのが原則です。ただし、相続人全員が合意すれば、考慮した分け方にすることはできます。
まとめ
2023年4月の改正で、相続開始から10年を過ぎると、遺産分割で特別受益・寄与分を主張できなくなり、法定相続分で分けることになりました。10年前に家庭裁判所に申し立てていれば例外として主張でき、改正前に始まった相続は2028年3月31日までは主張できます。
相続から時間がたっている方は、期限を計算して、早めにご相談ください。