監修:弁護士 佐藤 都(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)
兄だけが、親から家を建てる資金を出してもらっていた。妹は結婚のときに、多額の援助を受けていた。それなのに、親が亡くなった後の遺産は、兄弟で同じ割合で分けようと言われて、納得できない。
こうした生前の贈与は、「特別受益」として、遺産分割の中で考慮できる場合があります。特別受益を考慮すると、贈与を受けた人の取り分が減り、相続人の間の不公平を調整できます。
この記事では、特別受益にあたる贈与と、遺産分割での計算のしかた、主張するときの注意点を解説します。
こんな疑問はありませんか?
- 兄弟だけ、生前に多くもらっていた
- どんな贈与が、特別受益にあたる?
- 特別受益があると、取り分はどう変わる?
- 何十年も前の贈与でも主張できる?
- 生命保険金は、特別受益になる?
この記事でわかること
- 特別受益とは何か
- 特別受益にあたる贈与・あたらない贈与
- 遺産分割での計算のしかた(持ち戻し)
- 主張するときの注意点と期限
特別受益とは
特別受益とは、一部の相続人が、亡くなった方から生前に受けた特別な贈与や、遺言による贈与(遺贈)のことです。特別受益がある場合は、その分を遺産に足し戻して(持ち戻して)取り分を計算することで、相続人の間の公平を図ります。
特別受益にあたる贈与・あたらない贈与
特別受益にあたりやすいもの
- 住宅の購入資金や、建築資金の援助
- 結婚のときの持参金や、支度金
- 事業を始めるための資金の援助
- 不動産の贈与
- 遺言による財産の贈与(遺贈)
特別受益にあたりにくいもの
- 通常の生活費の援助
- 一般的な程度の学費(ほかの兄弟と同じくらいの教育費など)
- 少額のお祝いやお小遣い
特別受益のご相談を受け付けています
贈与の内容や時期を伺い、遺産分割でどう主張できるかをご説明します。
遺産分割での計算のしかた(持ち戻し)
特別受益がある場合は、次のように計算します。
| 例 | 遺産3,000万円、相続人は兄と弟の2人、兄が生前に1,000万円の贈与を受けていた場合 |
|---|---|
| 1. 持ち戻す | 3,000万円+1,000万円=4,000万円を、遺産とみなす |
| 2. 取り分を計算 | 4,000万円の2分の1で、1人2,000万円 |
| 3. 贈与の分を差し引く | 兄:2,000万円-1,000万円=1,000万円/弟:2,000万円 |
このように、特別受益を考慮すると、贈与を受けた人の取り分が減り、受けていない人の取り分が増えます。
主張するときの注意点
- 贈与があったことを示す資料(通帳の記録、契約書、贈与税の申告書など)を集める
- 亡くなった方が「持ち戻しをしなくてよい」という意思を示していた場合は、特別受益として扱われないことがある
- 20年以上結婚していた夫婦の間で、住む家を贈与した場合は、原則として持ち戻しをしなくてよいと考えられる
- 相続が始まってから10年が過ぎると、遺産分割の中で特別受益を主張することは、原則としてできなくなる(下で詳しく説明します)
POINT 何年も前の贈与は、証拠が残っていないことも多くあります。古い通帳や、銀行の取引履歴、当時のやりとりの記録がないか、早めに確認しておきましょう。
話し合いでまとまらないとき
特別受益があるかどうかや、その金額をめぐって話し合いがまとまらない場合は、遺産分割調停や審判の中で、裁判所に判断してもらうことになります。
相続開始から10年の期限(2023年4月の改正)
2023年4月1日に施行された改正民法で、相続が始まってから10年を過ぎた後の遺産分割では、特別受益を主張することができなくなりました。10年を過ぎると、原則として法定相続分(または遺言による指定相続分)で分けることになります。
| 例外1 | 10年が過ぎる前に、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てていた場合 |
|---|---|
| 例外2 | 10年が過ぎる前の6か月以内に、やむを得ない事由で申立てができなかった場合に、その事由がなくなってから6か月以内に申し立てた場合 |
| 改正前に始まった相続 | 相続開始から10年、または2028年3月31日の、いずれか遅いほうまで主張できる |
POINT 相続が始まってから何年もたっている場合は、特別受益を主張できる期限が迫っていることがあります。話し合いが長引いているときは、期限までに家庭裁判所に申し立てることが大切です。
→ 詳しくは「相続から10年で寄与分・特別受益は主張できない」
よくある質問
Q. 生命保険金は、特別受益になりますか?
生命保険金は、原則として受取人の固有の財産であり、特別受益にはあたらないとされています。ただし、保険金の額が遺産に比べて非常に大きいなど、特別な事情がある場合には、特別受益に準じて考慮されることもあります。
Q. 大学の学費を、兄だけ出してもらっていました。
兄弟の中で一人だけ、私立大学や留学の費用など、特に高額な学費を出してもらっていた場合は、特別受益にあたる可能性があります。家庭の経済状況なども考慮されます。
Q. 贈与を受けた本人が、贈与を認めません。
通帳の記録などの客観的な資料で、贈与があったことを示していく必要があります。資料の集め方もご相談ください。
まとめ
ほかの相続人が受けた生前贈与は、特別受益として、遺産分割で考慮できる場合があります。
証拠集めが大切で、主張には期限もあります。気になる贈与があれば、早めにご相談ください。