監修:弁護士 佐藤 都(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)
遺産のうち、預金はすぐにでも分けたいが、実家の不動産は評価や分け方で争いがあり、まとまりそうにない。預金だけ先に分けることはできないのだろうか。遺産分割は、遺産の全部を一度に分けるのが原則ですが、一部だけを先に分ける「一部分割」も認められています。ただし、あとで残りを分けるときに不公平にならないよう、注意が必要です。この記事では、一部分割ができる場合と、注意点を解説します。
こんな疑問はありませんか?
- 預金だけ先に分けることはできる?
- 一部分割をすると、残りの分割で不利になる?
- 一部分割の調停を申し立てられる?
- 預金の仮払いとは違う?
この記事でわかること
- 一部分割ができる場合(合意・調停・審判)
- 一部分割をするときの注意点(残りの分割への影響)
- 特別受益・寄与分がある場合の扱い
- 預金の仮払い制度との違い
一部分割とは
遺産分割は、本来、遺産の全部を対象に、相続人全員で一度に分けるものですが、相続人全員が合意すれば、遺産の一部(預金だけ、特定の不動産だけなど)を先に分けることができます(一部分割)。
2019年7月の民法改正で、相続人は家庭裁判所に遺産の一部の分割を求めることもできると明文化されました。ただし、一部を先に分けることで、ほかの相続人の利益を害するおそれがある場合は、裁判所は一部分割を認めません。
一部分割をするときの注意点
| 残りの分割への影響 | 先に分けた財産を、あとの分割でどう扱うか(先に受け取った分を考慮して残りを分けるのか、先に分けた分は清算済みとするのか)を、合意の中で明確にしておく |
|---|---|
| 特別受益・寄与分 | 一部分割の段階で特別受益や寄与分を考慮しないと、残りの財産だけでは調整しきれなくなることがある。全体の分け方の見通しを立ててから一部分割をする |
| 評価の争い | 不動産の評価でもめている場合、預金だけ先に分けると、不動産の評価が決まったときに不公平が生じることがある |
POINT 一部分割は、「残りの遺産で十分に調整できる」ことが確認できる場合に向いています。残りが不動産だけで、取得する相続人が代償金を払えないような場合は、全体をまとめて分けるほうが安全です。
遺産分割の進め方のご相談をお受けしています
遺産の内容を伺い、一部を先に分けるのがよいか、全体をまとめて分けるのがよいかをお伝えします。
一部分割が向いている場合
- 預金の払戻しを急ぐ事情がある(葬儀費用や相続税の納税資金など)
- 争いのない財産(預金)と、争いのある財産(不動産、使い込み)がはっきり分かれている
- 残りの遺産が十分にあり、あとで調整できる
預金の仮払い制度との違い
遺産分割の前でも、各相続人は、預金のうち一定額(1つの金融機関につき、預金額×法定相続分×3分の1で、150万円まで)を、単独で払い戻せる仮払い制度があります。これは遺産分割ではなく、払い戻した分は、その相続人が遺産の一部を取得したものとして、あとで遺産分割の中で精算されます。
一部分割は相続人全員の合意(または裁判所の判断)で行うもので、仮払いは単独でできるものという違いがあります。
手続き
相続人全員が合意する場合は、一部分割の内容を遺産分割協議書にまとめます。合意できない場合は、家庭裁判所に一部分割の調停・審判を申し立てますが、裁判所は、残りの遺産の分割への影響を考えて、認めるかどうかを判断します。
→ 調停の進め方は「遺産分割調停の流れ|何回で終わる?何を話す?」
よくある質問
Q. 一部分割の協議書の書き方は?
先に分ける財産を特定し、残りの遺産の分割に当たって先に分けた分をどう扱うかを明記します。弁護士にご相談ください。
Q. 相手が一部分割に応じない
相続人全員の合意がなければ、家庭裁判所に一部分割を申し立てることになります。認められるかは事案によります。
Q. 一部分割をしたあと、残りが長く決まらない
残りの遺産についても、相続開始から10年の期限などに注意して、調停の申立てを検討します。
まとめ
遺産の一部(預金など)だけを先に分ける一部分割は、相続人全員の合意があればでき、家庭裁判所に求めることもできます。ただし、残りの分割で不公平が生じないよう、先に分けた分の扱いや特別受益・寄与分の調整を考えておく必要があります。
一部を先に分けるべきか、全体の見通しとあわせてご相談ください。