監修:弁護士 佐藤 都(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)
兄は私立の医学部に行かせてもらい、自分は国立大学だった。妹の結婚式の費用は、親が全額出していた。弟は家を建てたとき、親から新築祝いをもらっていた。遺産分割のとき、こうした「親が生前に出してくれたお金」は、その人の取り分から差し引かれる(特別受益になる)のでしょうか。特別受益になるかどうかは、お金の性質と金額、親の資力によって判断が分かれます。この記事では、学費・結婚費用・お祝いなど、よく問題になるものを一つずつ解説します。
こんな疑問はありませんか?
- 兄だけ私立の医学部に行った学費は、特別受益になる?
- 結婚式の費用や持参金は?
- 新築祝いや入学祝いは?
- 毎月の生活費の援助や小遣いは?
この記事でわかること
- 特別受益になるかどうかの基本の考え方(遺産の前渡しといえるか)
- 学費・結婚費用・お祝い・生活費の援助、それぞれの扱い
- 親の資力と、兄弟の間の差による判断
- 主張するときの資料と、相続開始から10年の期限
基本の考え方
特別受益とは、相続人が亡くなった方から生前に受けた贈与のうち、「遺産の前渡し」といえるものです。具体的には、結婚や養子縁組のための贈与、生計の資本(生活の基盤を作るためのお金)としての贈与が、特別受益に当たります。
一方、親が子を扶養する範囲のお金や、親の資力や社会的地位からみて通常の範囲の援助は、特別受益にはなりません。つまり、「親として当然の支出か、それを超える特別な利益か」が分かれ目です。
よく問題になるもの
| 大学の学費 | 親の資力や家庭の状況からみて通常の範囲なら、特別受益にならないことが多い。兄弟の中で一人だけ、私立の医学部など特に多額の学費を出してもらった場合は、特別受益とされることがある |
|---|---|
| 結婚式の費用 | 挙式や披露宴の費用は、親が通常負担する範囲として、特別受益にならないとされることが多い |
| 持参金・支度金 | 結婚のときにまとまったお金を渡された場合は、金額によっては特別受益になる |
| 新築祝い・入学祝い | 社会通念上相当な範囲の金額なら特別受益にならない。多額の場合は問題になる |
| 住宅の購入資金 | 家を建てる・買うための援助は、生計の資本として特別受益になるのが一般的 |
| 毎月の生活費・小遣い | 親が子を扶養する範囲なら特別受益にならない。独立した子に長期間多額の援助をしていた場合は、問題になることがある |
| 不動産の贈与 | 生計の資本として、特別受益になるのが一般的 |
POINT 特別受益になるかどうかは、金額だけでなく、亡くなった方の資力と、ほかの兄弟との比較で判断されます。「自分だけ受けていない」という不公平の大きさが、判断の重要な要素です。
特別受益の主張・反論のご相談をお受けしています
贈与の内容と資料を伺い、特別受益として主張できるか、または反論できるかの見通しをお伝えします。
学費が問題になりやすい場合
学費は、親の教育方針や子どもの進路によって差が出るため、特別受益として争われやすい項目です。実務では、次のような場合に特別受益とされることがあります。
- 兄弟の中で一人だけ、私立の医学部・歯学部など、特に多額の学費を親が負担した
- 留学の費用や、長期間の浪人・大学院の費用を負担した
- 親の資力からみて、明らかに特別な支出だった
一方、兄弟全員がそれぞれ大学に行っている場合や、親に十分な資力があった場合は、特別受益とされないことが多くあります。
持戻しの免除
亡くなった方が、「この贈与は遺産の前渡しとして扱わない」という意思(持戻し免除の意思)を示していた場合は、特別受益に当たる贈与でも、遺産に戻して計算しません。遺言に書かれている場合のほか、贈与の経緯から黙示の意思が認められることもあります。
結婚して20年以上たった夫婦の一方が、もう一方に住んでいる建物やその土地を贈与(または遺贈)した場合は、持戻し免除の意思があったものと推定されます(民法903条4項。2019年7月1日施行の相続法改正で設けられた規定です)。
主張するときの資料と期限
- 親の通帳の出金記録と、相手の口座への入金記録
- 学校の納付書や、住宅の売買契約書など、使い道がわかる資料
- 親や相手とのやりとり(手紙、メール)
相続開始から10年を過ぎると、特別受益は主張できなくなります。
よくある質問
Q. 親が孫の学費を出していた
孫は相続人ではないため、原則として特別受益にはなりません。ただし、実質的に相続人(孫の親)への贈与とみられる場合は、問題になることがあります。
Q. 何十年も前の学費のことを、今さら主張できる?
時期の古さ自体で主張できなくなるわけではありませんが、資料がないと認められません。相続開始から10年の期限にも注意が必要です。
Q. 兄弟に「お前も援助を受けただろう」と言われた
お互いの受けた援助を出し合って、差し引きで考えることになります。自分が受けた分も整理しておきましょう。
まとめ
学費・結婚費用・お祝いなどは、親の資力や社会的地位からみて通常の範囲なら特別受益になりませんが、一人だけ特に多額の学費を出してもらった場合や、住宅の購入資金の援助などは、特別受益とされることがあります。親の意思で持戻しが免除される場合もあります。
贈与の内容と資料を持って、主張できるかどうかをご相談ください。