遺言無効確認の訴えとは|流れと証拠、期間

監修:弁護士 齊藤 翔平(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)

父の遺言書が出てきたが、認知症だった時期に書かれたもので、内容も不自然だ。筆跡が父のものと違う気がする。こうした遺言の有効性を争うときに使うのが、「遺言無効確認の訴え」です。遺言が無効になれば、遺言がない状態に戻り、相続人全員で遺産分割をすることになります。この記事では、遺言無効確認の訴えの流れと、どんな証拠で争うのか、どのくらいの期間がかかるのかを解説します。

こんな疑問はありませんか?

  • 遺言が無効だと思う。どこに、どうやって申し立てる?
  • 無効を認めてもらうには、どんな証拠が必要?
  • 裁判はどのくらいかかる?
  • 無効になったら、遺産はどうなる?

この記事でわかること

  • 遺言無効確認の訴えの流れ(調停から地方裁判所の訴訟へ)
  • 認知症・方式の不備・偽造、それぞれの立証に使う証拠
  • 裁判にかかる期間の目安
  • 無効が確定した後の遺産分割と、無効にならなかった場合の遺留分

遺言が無効になる主な理由

遺言能力がなかった認知症などで、遺言の内容と結果を理解する能力がない状態で書かれた
方式の不備自筆証書遺言で、全文の自書・日付・署名・押印のどれかが欠けている(財産目録はパソコン作成可)
偽造・変造本人以外が書いた、後から書き換えられた
錯誤・詐欺・強迫だまされたり脅されたりして書かされた
公序良俗違反不倫相手に全財産を遺すなど、内容が社会的に許されない場合(限定的)

遺言無効確認の訴えの流れ

1. 証拠の収集遺言書の写し(公正証書なら公証役場で謄本を取得)、遺言者の医療記録・介護記録、遺言当時の生活状況がわかる資料を集める。検認がまだの自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認を受ける
2. 調停の申立て遺言の無効は「家庭に関する事件」として、原則としてまず家庭裁判所に調停を申し立てる(調停前置)。相手方は、遺言で利益を受ける相続人や受遺者
3. 訴訟調停でまとまらなければ、地方裁判所に遺言無効確認の訴えを起こす(家庭裁判所ではなく地方裁判所)。実務では、争いが明らかな場合に調停を経ずに訴訟を起こすこともある
4. 審理医療記録の鑑定(遺言能力について医師の意見を求める)、筆跡鑑定、証人尋問などを行う
5. 判決・和解無効が認められれば、遺言はなかったことになる。途中で和解する(遺言の内容を一部修正して分ける)ことも多い

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立証に使う証拠

遺言能力(認知症)診療録(カルテ)、認知症の検査結果(長谷川式・MMSEなど)、要介護認定の調査票、介護施設の記録、当時の様子を知る家族・介護者の証言。遺言の内容が複雑か単純かも判断に影響する
方式の不備遺言書そのもの。日付の記載、押印の有無、加除訂正の方法などを確認する
偽造・変造筆跡鑑定、遺言者の他の筆跡資料(手紙、日記、申込書など)、遺言当時の遺言者の身体状況(字を書けたか)
公正証書遺言の場合公証人が本人確認をしているため無効の立証は難しいが、遺言能力がなかったことを医療記録で立証して無効とされた例はある

POINT 遺言能力の争いでは、遺言を書いた「その日」の状態が問題になります。要介護認定の調査票や施設の記録には、その時期の会話や理解力が具体的に書かれていることが多く、重要な証拠になります。記録の保存期間があるため、早めに取り寄せることが大切です。

期間と費用の目安

  • 調停:申立てから3〜6か月程度
  • 訴訟:1審で1年〜2年程度。鑑定を行う場合はさらにかかる
  • 裁判所に納める費用:訴額(遺産の価額)に応じた収入印紙と郵便切手
  • 鑑定費用:医療記録の鑑定、筆跡鑑定でそれぞれ数十万円かかることがある

無効が確定した後/無効にならなかった場合

無効が確定した遺言がなかった状態に戻り、法定相続人全員で遺産分割をする。すでに遺言どおりに名義変更などがされていれば、その取戻しも必要
無効にならなかった遺言は有効なので、遺言の内容で遺産が分けられる。取り分が少ない相続人は、遺留分侵害額請求で最低限の取り分を確保できる

よくある質問

Q. 遺言無効確認の訴えに、期限はありますか?

遺言の無効確認そのものに期限はありません。ただし、遺留分侵害額請求には1年の期限があるため、無効を争う間に遺留分の請求もしておく(内容証明で通知しておく)のが安全です。

Q. 公正証書遺言でも無効にできますか?

公正証書遺言は方式の不備で無効になることはほぼありませんが、遺言能力がなかったことを立証できれば無効になります。ハードルは高いものの、認められた例はあります。

Q. 遺言執行者がすでに手続きを進めています。

訴訟の見込みがある場合は、遺言執行者に無効を争う旨を通知し、手続きを止めるよう求めます。必要に応じて、処分禁止の仮処分を検討します。

まとめ

遺言の有効性を争うには、遺言無効確認の調停を経て、地方裁判所に訴えを起こします。認知症による遺言能力の争いでは、カルテ・認知症の検査結果・要介護認定の調査票・施設の記録などが重要な証拠で、保存期間があるため早めの取り寄せが大切です。訴訟は1審で1〜2年程度かかり、和解で解決することもあります。無効にならない場合に備えて、遺留分の請求(1年以内)もあわせて行います。

遺言に疑問がある方は、記録が残っているうちにご相談ください。

この記事の監修

弁護士 齊藤 翔平(埼玉弁護士会所属/大宮ありあけ法律事務所)

青山学院大学法学部卒業。
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